「わかったわ!彼女の言葉の意味がわかったよ」
彼女はおそらく知っていた。自分たちが雨宿りしている木陰が危険であることを。
「あの木はね。キョウチクトウというのよ。夏の今の時期に咲くの」
「キョウチクトウ?へえ。知らなかったな」
「花の色は赤やピンクや白。わたしは白いキョウチクトウが好き。このカフェにあるキョウチクトウも白だね」
「綺麗ですよね」
確かに綺麗なんだけど、でもと言葉を継ぐ。
「毒があるのよ」
「えっ!毒?」
「花を鑑賞するだけなら問題ないわ。丈夫な木だからあちこちに植えられているしね」
「ですよね。街中で普通に見かけます」
「彼女はキョウチクトウに毒があるのを知っていたと思う。誠也くんはその日は雨が降っていたと言った」
「そうです。だから雨宿りを・・・」
「それでキョウチクトウの枝を伝ってきた雫がもしも目に入ったり口に入ったりしたら?」
「ああ!それは、毒の木だからやばいっすね」
実際の危険性はわからないけれど、わたしが彼女の立場だったら、同じことを言うかもしれない。それにロマンチックな瞬間はもっとふさわしい場所で迎えたいもの。
「俺、あの木がキョウチクトウという名前で毒があるなんて知らなかったんですよ。彼女も言ってくれたらよかったのに」
「彼女は誠也くんが知っていると思っていたんじゃない。だからデリカシーがないって怒った」
「はあ」
「彼女に今度会ったら謝ればいいよ。ごめん、知らなかったんだって」
謎は解けた。夏の恋の行方は彼ら自身に任せよう。
わたしの方は、お店のキョウチクトウをどうするか決めかねていた。敷地の隅っこにあって白い花が咲いている。
そこはお客様の動線から外れており、カフェの出入り口からも離れているからオッケーとするか、飲食店にふさわしくないという理由で、この際、思い切って伐採してしまうか。どうしようかな。
このキョウチクトウは先代のオーナーである杏子叔母さんが植えたものだ。叔母さんはきっとキョウチクトウの毒性について知らなかったに違いない。
いずれにしてもわたしが勝手に切ってしまうのは忍びない。それに、可能ならば残しておきたい。だから叔母さんに相談してから決めることする。
さて、休憩時間も終わりだ。蝉の声と潮の匂い。わたしとブルージーンズの彼は、麦わら帽子を被り直す。そして涼しい風が吹き抜ける木陰から、眩しいほどの日差しの中へ。
〜Fin〜
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